勘違いでも結果オーライ

クラブの指示に満足できず、自分で仕事を作ってみました

2014/10/28
本村由希はプレミアリーグのクラブでスポンサーセールスの通訳を任されるようになると、クラブと日本企業の「常識」が異なることに気がついた。そこで翻訳のときに日本人でもわかるように情報を足してみると、大きな改善が見られた。スポーツビジネスの面白さに目覚めた本村は、次なるアクションを起こす。
イギリスではサッカーが生活の一部になっており、スポーツビジネスに対する意識も日本とは異なる(写真:本村氏提供)

イギリスではサッカーが生活の一部になっており、スポーツビジネスに対する意識も日本とは異なる(写真:本村氏提供)

世界的なスポンサーセールスに伴うイライラ

前回はクラブが日本企業にスポンサー契約を売り込む際、直訳するだけでは伝わらないということを書きました。たとえばクラブのレジェンドがイベントに参加する意義を、野球の例を補って伝えると、日本の役員クラスの方たちにもわかりやすくなると。

ココの部分って、ヨーロッパの人には抜け落ちちゃう部分なんですよ。向こうの人にとっては、国民的スポーツであるサッカーの名門クラブのレジェンドが、イベントに参加したら盛り上がって当然という感覚。スポンサー企業にとって、絶対にプラスになるっていう前提で話を進めてしまうんです。なぜって、それがサッカービジネスでは当たり前のことだからです。

また、サッカービジネスがヨーロッパだけではなく、グローバルに展開されていることは、ヨーロッパの人たちには当たり前のこと。その辺、わざわざ説明をする必要がないと考えてしまうんです。

そう、ヨーロッパのクラブにとっての世界的なスポンサーセールスって、サッカーやサッカービジネスをよく知らない人に売り込まなきゃいけないこともあるっていう、結構地道でイライラがジワジワ来る仕事です。アメリカに売り込むとかなら話が早いんでしょうけどね。プレミアリーグのクラブだってグローバル化したものの、乗り込んだ先でローカル化に手間取ってたりするんじゃないでしょうか、この調子だと。どこぞの国の企業に似てますね。

スポンサー担当の営業社員に戦略を示した

このように、様々な案件について日本語訳をする際に、筋の通った付け足しをするためには、サッカービジネス全般やスポンサー企業が獲得できる権利をきちんと理解していないとできません。そうなってくるとおのずと自分で知識を増やすように意識が向いてくるもんです。だって、ウソはつけませんからね。

この頃からです、サッカービジネスが面白いなと思い始めたのは。

そして、この頃からです、日本人にスポンサービジネスとかサッカービジネスとか、あんまり伝わってないかも……と気づき始めたのは。

こうやって段々と知識が増えてくると、

「あー、ここ、お互い文化の違いですれ違ってるなー」

「ここ、もうちょっとこうすれば、日本の人たちにも興味もってもらえるのに」

「それ、そこでそう言っても伝わらないっしょー」

っていう場面に遭遇する率が高くなってきます。ここまで来るともうイライラが止まらなーい!!!

そこでひらめいちゃったんですねー、私。

クラブとアジアや日本企業の間では、スポーツマーケティングやスポンサーの認識に差がある、と。ならばだ。私がその部分を埋める役割を自分でやってしまえばいいんでないの。営業サポートとでも言いましょうかね。日本にスポンサー契約を売り込む営業社員に情報を与えたり、戦略を示す仕事。会社から与えられたタスクで満足できないなら、仕事を作ってしまおう。うん、我ながら名案。

それに、もしもですよ、これで私の仕事っぷりが認められて部署とか作ってもらえちゃったら、自動的にマネージャーって肩書きがつくじゃないですか、だって私しかいないんだから。

……って、随分のん気だったんだなぁ、私。

言っておきますけど、もちろん部署とか作ってもらえませんでしたよ。当たり前です。第一、働き始めて数カ月の社員の話を誰が真剣に聞くかっていう話です。しかも私、外国人。というか、誰にも頼まれてませんからね、こういうことしろって。

社内で顔が売れて結果オーライ

結果的にクラブと日本の認識の差を埋めていると思って「頑張ってるアピール」してたのは私だけで、社内の大部分の人達は気にもとめてなかったのではないでしょうかね、ハハハ。だって気にも留めようがないですよ、イギリス人社員が日本の企業文化なんてわからないわけだし、評価のしようがないです(最初に気づけよ、自分……って思う)。

実際、数人の営業社員には丁寧に日本の企業文化やスポーツマーケティングに関する認識を説明し、多少わかってはもらえました。でもそれがいきなり評価につながったりはしませんでした。社内の人間には「なんかよくわかんないけど、スムーズに英語を日本語に訳してくれる人」ぐらいだったんでしょうね。

そういえば当時、色々な人にサッカークラブでどんな仕事してるか聞かれるたびに、「日本とイギリスの文化の差を埋めるみたいな。繋ぎ役ってヤツよ」とかドヤ顔で答えてたけど、実はアレ、非公式だったという。でもウソはついてないですよ。ただ勝手にそういう役を与えられてると思い込んでただけ。

まぁ、自己満足ですよ。おかげで短期契約だったはずが結果的に1年以上働かせてもらえたわけだし、社内で私の顔も売れたっちゃし、よかったかな。

とういうことで、前回と今回はこの世界で働くのが難しいかどうかについての考察と、新入りの私がプレミアのサッカークラブ1チーム目でどう生き残ったかでした。

転職のいきさつは次回の連載で

結論をいうと、最初のクラブに就職するのは簡単でした。

それはクラブがたまたま探していた「日本人」というカテゴリーに一致したからです。
そしてそのクラブで生き残ることもそれほど苦ではありませんでした、最初は。

なぜなら日本人としての知識やアドバンテージを使うことができたからです。しかも「ちゃんとお客様に日本語で説明しなきゃ!」とか「通訳するときグダグダだったら恥ずかしい!」っていう気持ちとか、イギリス人社員と日本企業の分かり合えてない感からくるもどかしさが、スポンサーセールスを(頼まれてもないのに)1から学ぶきっかけになり、(頼まれてもないのに)気がついたら勝手に仕事を作った気になって、勝手に頑張ってるように思って、気づいたら1年以上が経過していただけのことです。

思い込みって怖いねぇ。

でも、今のクラブでの職をつかむのはちょっと大変でした。

次回は私が転職(選手じゃないから移籍じゃないよ)を思い立った経緯と転職活動についてお話したいと思います。

*本連載は毎週火曜日に掲載される予定です。